時系列まとめ的な記事を書いてみました
→【過去エントリから須賀川市立第一中学校柔道部暴行事件を振り返ってみる】
これで有罪と決め付けるのは乱暴では?[御殿場事件(PART3+)]
2007.05.31/Thu
▼御殿場事件、20日に再審始まる[御殿場事件(PART5)]
▼疑問に答えていない控訴審判決[御殿場事件(PART4)]
前記事【地裁が「初動捜査のお粗末さ」を(一応)批判[御殿場事件(PART3)]】の続きで、ここでは
・テレビ朝日『ザ・スクープ』番組サイトから見れる【御殿場事件の回の動画】
・【MSN毎日インタラクティブ(静岡版)『御殿場の婦女暴行未遂:判決要旨 /静岡』(ウェブ魚拓)】
とにらめっこして気になった点について(既に控訴審は結審しているが(汗))、ちょいとおさらいしてみようと思う。
長めの文章ですが、どうか最後までお付き合い下さいませ。
被告人達の心証が云々という意見があるが、この発言により少女の心証も悪くなっていると言えないだろうか?
疑問その1:少女の証言の信憑性――雨は降っていたか? 1審の公判において、「真の事件発生日とされる2001年9月9日に雨が降って服が濡れたという事はあるか?」という被告側弁護人の質問に対し、少女が「雨で服が濡れた記憶は無い」と証言した事から、証言の信憑性に更なる疑念が生じている。
弁護側はこの証言の矛盾を突く(=犯行時現場には雨が降っていた)事で無罪を証明しようとした。しかし検察側は、「犯行日の御殿場市に雨が降っていた事を示す証拠のデータ元である「(アメダス)富士山測候所 御殿場基地」と現場の公園が500メートル離れていることから公園だけ局地的に雨が降らなかった可能性もある」として、少女の証言に矛盾は無いと反論している。
アメダス以外に証拠はあった
だが番組を見直してみると、事件発生時間帯に公園から200メートルほどの場所で雨が降っていたという文書による証拠があるそうな。
事件が起きたとされる頃、事件現場の公園から200メートルほどの場所で交通事故が起きたという。この事故では保険が適用されたらしく、保険会社が調書を取ったそうだが、その調書には「事故発生時雨が降っていた」と書かれている。
私はまだ損害保険のお世話になった事は無いのでよく分からないが、保険が適用されるという話になれば警察による調査も必要になると思われる。ということは、この事故を記録した警察の調書を探せば、公園近くで雨が降っていたと証明する警察内部の資料が見つかるのではないだろうか?
「犯行時」に雨が降っていたかどうかは重要じゃない?
ここまで「雨が降っていたか否か?」について長々書いてきたが、よくよく考えると、少女の証言に矛盾があるかどうかを確かめるのに「事件当時雨が降っていたかどうか?」はあまり重要ではないかもしれない。
番組の最後に、事件が起きた2001年9月9日における御殿場市の降水量データが紹介されていた。気象庁ホームページには【全国各地の気象統計情報を検索できるサービス】があり、これで【御殿場市の2001年9月9日の降水量】を調べると、犯行日の御殿場市はほぼ1日中雨が降っていた(1時間に3ミリの降水量があると、一般にいうところの雨に該当する)事が分かる。
これが一体何を指すのか?
少女の主張が事実であれば、以下の論理が成立するのが自然である。
少女は公園の芝生に押さえ込まれて云々されたと主張。
→犯行日の公園の芝生は雨のせいでビショビショになっていた。
→押さえ込まれた際に服が濡れる。
ところが、ここで少女の主張はこうなっている。
「公園の芝生に押さえ込まれ云々された。でもその時に服が雨で濡れた記憶は無い。」
9日の降水量のデータを見た感じ、犯行時刻に公園の地面がカラッカラに乾いているというのは考え難い。
以上の点から、少女の「服は濡れていない」という証言は矛盾していると言えそうだし、また検察の「公園だけ局地的に雨が降っていなかった」という反論は少女の証言に対する疑念を払拭するのに十分でない気がするのだが、どうだろうか?
疑問その2:9日に関する追加的な捜査は行われているのか?
犯行日が変更された時、自白調書を始めとする「16日に犯行があった事を立証する証拠」は意味を持たなくなったはずである。
それと同時に少女の証言も以下の4点で変更があった。
・「無理やり連行された」→「声をかけられたのがうれしくて自分からついていった」
・「脅されて母にウソの電話」→「電話などしていない」
・「犯行時間は21時50分から23時」→「21時30分前後」
・「帰宅時間は24時以降」→「23時に帰宅」
普通、ここまで前提条件が変われば捜査は一からやり直しになりそうなものだが、1審ではこれまで集めた証拠を流用しただけで、9日に犯行があった事を立証する追加的な捜査はロクに行われていない印象があった。この「16日の証拠をそのまま9日の証拠として流用する」ってのは、(例えが適切であるかは不明だが(笑))去年の決算書の数字をそっくりそのまま今年の決算として出すくらいムチャクチャな行為である気がするのだが、いかに?
捜査員「取調べの内容を覚えていない」
「9日に関する追加的な捜査が行われたのか?」という論点について、29日に判決があった裁判の中で以下のようなやり取りがあったそうな。
“公務員の不祥事『捜査警察官を証人尋問したら「内容、記憶定かでない」/静岡』”より
御殿場市で01年9月に起きた婦女暴行未遂事件で強姦未遂罪に問われた当時16歳の男性被告(21)の第9回公判が28日、地裁沼津支部であり、一連の公判で初めて被害にあった高校生少女(当時15歳)の捜査を担当した女性警察官の証人尋問が行われた。
当初、少女が事件発生日を「9月16日」としていたが、事件発覚から約10カ月後の02年7月になって「9月9日」と供述変更したことなどを根拠に、捜査の不十分さを追及され、女性警察官は「供述変更後は、少女の手帳や学校関係者の証言などを基に裏付け捜査をした」と述べたが、捜査内容については「記憶が定かではない」などと述べ、捜査のいいかげんさを露呈した。
姉川博之裁判長の「日付が変わり、事件をおかしいと思わなかったか」との問いに、「少女の証言を考えると事件はあったと思う」と話しただけで、裁判長の質問への直接の答えはしなかった。
なお、2ちゃんねるのニュース議論板の情報によると、上の話は2006年11月29日付けの毎日新聞(静岡版?)の記事がソースである模様(【Yahoo!ニュース過去記事検索サービス】を参照)。
疑問その3:有罪の根拠は「当事者の供述」のみ
判決要旨を読むと、根拠として挙げられているのは被害者及び被告の供述のみである。
また、判決文に「被告の供述は具体的かつ迫真性を持つ」と書かれているが、富山冤罪事件や志布志事件の例を考慮すると、キツイ取調べによる精神的プレッシャーとかで供述に迫真性が付いたのではと疑う余地がありそうだ。
裁判官は被告人・弁護人を信用していない?
ちょっと脱線するが、裁判の争点にもなった「取調べで得た供述の信憑性」について、元検事の方によると富山冤罪事件を例に以下のような指摘ができるそうな。
“弁護士 落合洋司(東京弁護士会)の「日々是好日」『[話題]捜査において偽装される任意性・信用性』”より抜粋
しかし、こういった実態があても、証人出廷した警察官は、「図面は自発的に書いた」「誘導はしていない」ということを言いがちであり、そうではない、と公判で主張する被告人、弁護人とは、水掛け論になりがちです。裁判所も、嘘ばかりついている(と裁判所が思っている)被告人の言い分や、お金をもらって犯罪者に加担している(と裁判所が思っている)弁護人の言うことは、なかなか信じない、という傾向があり、最終的には捜査機関ペースで事実認定される、ということになりがちです。この辺は、検事をやっていると、正直言って、裁判所が捜査機関ペースで簡単に認定してくれるので楽だな、と実感するところであり、逆に言えば、弁護士になってみると、真実がなかなか通らず難しい、と実感するところでもあります。
仮にこういう風潮があるのだとしたら、一審であんな強引な形の訴因変更が認められてというのも納得がいく。ってか、もしそうだとしたら、こいつは裁判官の存在意義の根幹に関わってきそうな問題である気がするんですけど(汗)
余談だが、番組で被告の人が「裁判で争おうとすれば金が掛かり家族が迷惑するぞ」的な脅し文句を取調べ中に言われたと話していたけど、これを聞いた時、志布志事件の「弁護士費用は1億円掛かるぞ」という脅し文句を思い出した(笑)
結論:有罪論・無罪論も決め手に欠ける
・・・とまぁこんな感じで、どちらかというと有罪論に対する反論みたいなのを書いてきた。
もう一度書くが、被告の人達が自分の潔白を証明するのはもはや難しい。しかし、有罪論に対して論理的にそんなムリの無いツッコミができてしまうというのはやはりおかしい気がする。また、県警が被害者の衣服などといった物的証拠を集めていないというミスを犯している事も忘れてはいけない。
まとめると、
アリバイを証明できない点で被告達は潔白だと言い切れないが、合理的な基礎を得られていない以上は有罪と決め付けるのもムリあんだろ
というのが現時点での結論である。
控訴審ではより突っ込んだ証拠のやり取りが行われたのだと思うけれど、双方とも今以上の決め手を出せず有罪無罪をハッキリ言い切れないようならば、「疑わしきは罰せず」の原則通り無罪とするのが妥当ではないでしょうかねぇ。
最後に、被告の方達には申し訳ないが、やっぱ日頃の行いって大事なんだなぁと思った(A^-^;
[関連記事]
▼御殿場事件、20日に再審始まる[御殿場事件(PART5)]
▼疑問に答えていない控訴審判決[御殿場事件(PART4)]
[スポンサードリンク]
“公務員の不祥事『捜査警察官を証人尋問したら「内容、記憶定かでない」/静岡』”より
御殿場市で01年9月に起きた婦女暴行未遂事件で強姦未遂罪に問われた当時16歳の男性被告(21)の第9回公判が28日、地裁沼津支部であり、一連の公判で初めて被害にあった高校生少女(当時15歳)の捜査を担当した女性警察官の証人尋問が行われた。
当初、少女が事件発生日を「9月16日」としていたが、事件発覚から約10カ月後の02年7月になって「9月9日」と供述変更したことなどを根拠に、捜査の不十分さを追及され、女性警察官は「供述変更後は、少女の手帳や学校関係者の証言などを基に裏付け捜査をした」と述べたが、捜査内容については「記憶が定かではない」などと述べ、捜査のいいかげんさを露呈した。
姉川博之裁判長の「日付が変わり、事件をおかしいと思わなかったか」との問いに、「少女の証言を考えると事件はあったと思う」と話しただけで、裁判長の質問への直接の答えはしなかった。
“弁護士 落合洋司(東京弁護士会)の「日々是好日」『[話題]捜査において偽装される任意性・信用性』”より抜粋
しかし、こういった実態があても、証人出廷した警察官は、「図面は自発的に書いた」「誘導はしていない」ということを言いがちであり、そうではない、と公判で主張する被告人、弁護人とは、水掛け論になりがちです。裁判所も、嘘ばかりついている(と裁判所が思っている)被告人の言い分や、お金をもらって犯罪者に加担している(と裁判所が思っている)弁護人の言うことは、なかなか信じない、という傾向があり、最終的には捜査機関ペースで事実認定される、ということになりがちです。この辺は、検事をやっていると、正直言って、裁判所が捜査機関ペースで簡単に認定してくれるので楽だな、と実感するところであり、逆に言えば、弁護士になってみると、真実がなかなか通らず難しい、と実感するところでもあります。
« Google AdSenseの浄化に繋がるか?――特定商取引法の罰則強化
地裁が「初動捜査のお粗末さ」を(一応)批判[御殿場事件(PART3)] »
この記事に対するコメント
ベテラン捜査員が「あやしい」「現場を見た」という証言しかないのが現実でしょう。
でもそうすると、本当に痴漢をしているのに、客観的証拠がないという理由で無罪になる。そうすると、痴漢事件で有罪になることはない、ということになってしまいます。
だから、この種の証拠の示せない事件では、裁判所は検察からまわってきたものは、すべて検察のいう通り有罪にするという暗黙のルールがあるのではないでしょうか。
2007/08/23 10:05 * 編集 *
「客観的証拠が無いから無罪」というのも問題ありますね。
被疑者の供述からしか引き出せない事実があるというのも確かですから。
コチラを参照→http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20070819#1187487336
検察と裁判所の「暗黙のルール」。
素人目から見ると、それは司法の独立性を崩しかねない危険なシロモノである気がします。
2007/08/23 22:41 * 編集 *
いや、刑事裁判の大原則として、被告人は自分の身の潔白を証明する必要は一切ないんです。
「被告人が有罪であることを合理的な疑いがない程度にまで証明する検察官に課された義務」というのだけが存在します。
その有罪立証に対して被告人側が疑問を投げかけ、その疑問を解消できなければ、合理的な疑いがあることになります。
被告人側が積極的に無罪性を立証することは全く必要ない。というか、「ある」ことは証明できても、「無い」ことは絶対に証明できないのです。
ですから有罪であることに合理的な疑いが少しでもある場合は「無罪判決」を出しなさい、というのが本来の我が国の刑事司法の大原則。
2007/08/24 11:30 * 編集 *
解説ありがとうございます。
アリバイの他に、この事件にはツッコミ所が多く出てきているのに、検察はそれに対する説明を十分に行っていないように見えるってのは問題ですね。
2007/08/26 03:20 * 編集 *
コメントの投稿
※URLの記入はhttpのhを抜いて下さい(スパム対策です)。
| h o m e |









